2003年4月から業としてリールに関わるようになり、もうじき20年を迎えようとしています。
当初は中古釣具チェーンに加盟し、初歩的な構造やお手入れの仕方などの研修を受たのちに、日々店舗運営に勤しんでいました。釣りと釣り道具に関する知識・経験を増やすべく、がむしゃらにどんなことでも実践し、経験量を増やす努力をしていました。そんな日々の中で、大手リールメーカーのメカニックの方から、「リールの正しいメンテナンスって意外と調べても見つからないんだよね」と聞き、確かにリールに付属の取扱説明書に簡単にお手入れの仕方が載っている程度で、分解清掃や内部のメンテナンスについてはあまり見たことがないなと思いました。
中古釣具を買い取り、販売するという毎日のサイクルの中で、リールについては外観の清掃だけではどうしても販売に不安があり、新品に近い状態のもの以外は分解清掃をするようにしていました。店の隅にリールを分解するコーナーを設けて、いつもリールを分解清掃していましたので、来店するお客様からは「店長はいつもリールをバラバラにして遊んでるね」とよく言われていました。
突然バネが飛び出したり、パーツがバラバラと落ちてしまい、正しい位置が分からなくなると、同じ機種が入荷するまでそのままにしておき、正しく組み直しできるまで待つという失敗の繰り返しで、文字通り身体で覚える経験を続けてきました。教えてくれる師匠的な人もおらず、すべての失敗は自分でリカバーするしかありませんでした。どれだけたくさんのリールをジャンク品にしてしまったか数えきれませんが、あの経験がなければSelffishという店は間違いなく誕生していませんでした。
数年が経過すると、リールの細かい部分まで覚えることができ、ジャンク品と化すリールの数もわずかになってきました。パーツのひとつひとつの役割を理解し、正常な動作がどういうものか少し分かるようになりました。このころまでに分解清掃したリールの台数は3,000台くらいで、そこそこ分かってきたと勘違いをし始めたころです。店の隅で分解している様子を見て、興味を示してくる自称リールメンテのプロという方々が出現するようになり、自分も含め、リールメンテについてはちょっと語れるなどと図に乗っていました。
そのとき、そういえば昔本物のプロ(大手メーカーのメカニックさん)の方が、正しいリールメンテはなかなか見つからないと言われていたのを思いだし、見ていただくようお願いしてみました。
結果は「残念ながら機械に対する理解が不十分です」ということで、かなりのショックを受けました。
それからグリス、オイルといったケミカル類のこと、ボルトの締め付けトルク、動作時の摩擦のことなど知識面の勉強をしながら、オーバーホールを実践する日々に変わりました。その方から言われたことは、10,000という数字は、アマチュアとプロを分ける数字なんですよという言葉でした。確かに10,000時間の経験はプロを作り上げると何かで読んだことがあるなくらいに思っていました。
実際にその言葉の意味を実感したのは、10年が経過したころです。オーバーホールしたリールの台数が10,000台を超えた頃、それまでとは違うステージに上がったような感じが芽生え始めました。具体的に何が変わったのか分かりませんが、大抵のことは対処できるだろうという自信と、まだ以前のステージにいる自称プロたちから何を言われても自分の考えがぶれないようになりました。10,000時間よりはだいぶかかりましたが、私の場合は10,000台が脱皮した瞬間でした。
その後も着々と台数を重ね、通算20,000台を超えた頃に、海外のリールメーカー様よりオーバーホール業務提携のお話をいただきました。このお話は残念ながら折り合いがつかず、実現できませんでしたが、長年積み重ねてきたものが、少しずつ実を結び始めようとしている兆しが見え、さらに頑張ろうという気持ちを醸成することができました。
そして、このたび昔から大好きな国内リールメーカー様より修理業務委託のお話をいただきました。正式決定はまだ先になりますが、実現できればユーザー様全員に最高のリールを実感していただけるよう全力投球いたします。
さて、私の場合は中古釣具店を営むという環境で、毎日豊富なリールをOHできましたので、指導してくれるメンター的な方がいなくても、ある程度の問題は自力で解決することができました。しかしながら、一般的には自力でリールを分解整備できるようになるのは難しいのではないかと思います。
実際にSelffishでも、「YouTubeをみてやってみたが、おかしくなってしまった」という修理の依頼が毎日のようにあります。
基本的にSelffishでは、分解を伴わない日頃のお手入れはご自分で、分解を伴うオーバーホールはメーカーや専門店にご依頼されるようお勧めしていますが、「自分のリールくらい自分でできるようになりたい」というユーザーさんがたくさん存在することも理解しています。自分もそうでしたから・・
そこで、私ほど遠回りしなくても一定のスキルを習得できるよう、私が経験したきたことをどんどんお伝えしていこうと、このコーナーを新設しました。今後は、自分のリールは自分で整備したいという方々の助けになるような記事を蓄積していき、必要な時は動画も活用して、つまづきやすいところを手当てできる内容を掲載できればと考えています。さらにスキルアップし、プロフェッショナルを目指す方に対応できるコンテンツもご用意できるよう少しずつ作り上げていきますのでご期待ください。
チャレンジしてみたが、上手くいかない、お手上げという場合には、できる限りサポートをしたいと思いますが、よく聞くフレーズ「自己責任でお願いします」は同様ですので、「言われたとおりにやったのに壊れた、どうしてくれるんだ」という可能性のある場合は、やめておいてください。また、当記事の転載はしないようお願いいたします。
それでは少しづつになると思いますが、リールオーバーホールについての記事を綴っていきたいと思います。